刺鍼の深さと安全性

ルー博士!
鍼を刺す時の深さについて学校であんまり教えもらえなかったんだよね。
患者さんの体を守る為なのはもちろんだけど、自分の治療家としての責任としても安全な刺鍼時の刺入深度が知りたいんだよね!

うん!!いい心掛けだね!
ケンちゃんのいう通り、治療に来てくれた患者さんの体を守る為にも大事。
それに患者さんを傷つけてしまって賠償責任に問われたりすれば鍼灸師として活動もできなくなるかもしれないから、自分の身を守る為にも大切な知識だね!
そんなケンちゃんにこんな論文があるよ!
姿勢と呼吸に応じた【肩井】における
安全な鍼の刺入深度の変化
研究の背景・目的
背景
鍼治療において気胸は頻度は低いものの最も重大な医原性合併症の一つです。
特に肩こりの主穴である「肩井(GB21)」は直下に肺尖・胸膜が存在するため、気胸事故の約30%がこの経穴への刺鍼に起因していると報告されています。
従来の安全深度に関するデータは検体解剖(固定組織による萎縮・変化)や静止CT/MRI画像に基づいたものが多く、実際の臨床における「姿勢(座位・腹臥位)」や「呼吸(吸気・呼気)」が生体の胸膜深度にどう影響するかは不明瞭でした。
目的
本研究の目的は、超音波画像を用いて生体における肩井穴(皮膚表面から胸膜までの距離=安全刺入深度)をリアルタイムに計測し、姿勢・呼吸・体型(性別・BMI)による深度の変動を定量化して臨床上の安全基準を明らかにすることです。
研究方法と結果
研究方法
・成人被験者52名(男性24名、女性28名)を対象に実施。
・超音波プローブを肩井穴に対して矢状面・皮膚垂直に当て、皮膚表面から胸膜(肺表面)までの距離をリアルタイム計測。
・「座位」「腹臥位(腕を下垂させた状態・腕を挙げた状態)」の姿勢差、および「最大吸気」「最大呼気」による呼吸動態ごとの距離を比較・統計解析。
結果
全体の平均深度と性差
・全体の皮膚から胸膜までの平均距離は約38.0 ± 6.4 mm
・男性は平均42.3 ± 5.7 mm、女性は平均34.6 ± 4.7 mmであり、女性の方が有意に胸膜までの距離が浅い(約7.7 mm浅い)ことが判明。
姿勢による変化
【座位】の場合
平均深度(約38.1 mm)
【腹臥位】(腕を挙げたポジション)の場合
平均深度が約42.1 mm
座位と比べて腹臥位の方が約4 mm深くなり、腹臥位の方が胸膜までの安全距離が広がることが確認された
呼吸位相による変化
最大吸気時(肺が膨らむ)は胸膜が皮膚側へ迫るため距離が短縮し、最大呼気時に距離が最長となった。
多くの被験者では呼吸による変動は1 mm前後だったが、中には呼吸のみで4.5 mm以上胸膜位置が変動する被験者も存在した。
体型(BMI)のバラツキ
過体重群は正常体重群よりも深度が大きい傾向にあったが、同一個体内・グループ内での個人差の標準偏差が大きく、単純に「BMIが高いから深く刺しても安全」と一律に判断するのは危険であると結論づけられた。

座位よりも腕を上げた腹臥位の方が厚みが出て肩井から胸膜までの距離が増えて、息を吸った時の方が胸膜が皮膚に迫るって事だね!
体型については体格がいい人の方が安全な傾向にあるけど個人差があるから【太っているからといって安全とは限らない】という事だね。
まとめ
- 肩井穴への垂直刺鍼において、女性や痩せ型の患者では「30 mm(寸6〜2寸鍼の半分強)」の刺入深度であっても容易に胸膜・肺尖部に達し、気胸を引き起こす解剖学的危険性が高いことが示されました。
- 施術姿勢としては、座位よりも「腹臥位」の方が胸郭と筋群の位置関係から胸膜までの距離を確保しやすく、安全域が広がります。
- 呼吸による肺尖の挙上(吸気時)や個体差による胸壁厚の違いを考慮し、肩井穴や肩背部・胸郭上への刺鍼では「深部への垂直刺入を避け、肋骨面を滑らせるような斜刺・横刺を選択する」「筋膜・筋層を徒手でつまみ上げて(把持して)打つ」などの手技管理が事故予防に不可欠であると示唆されています。
- 肩井〜胸膜まで「男性は平均42.3 ± 5.7 mm」「女性は平均34.6 ± 4.7 mm」の為
42.3-5.7=36.6mm 34.6-4.7=29.9mmと考えた場合
・男性は35mm未満
・女性は30mm未満
論文の結論では「女性は30mm未満」とまとめられていますが、これは統計上の目安(平均34.6mm − 1標準偏差4.7mm = 約29.9mm)から導かれた数値です。
実際には最も浅い被験者で「27.6mm」という実測データも存在します。
「30mm未満なら安心」と過信せず、痩せ型の方などにはさらに浅く打つ、または斜刺・横刺を選択することが重要です

肩井に刺鍼する時は【男性は35mm未満】【女性は30mm未満】体型によっては横刺や斜刺で安全を考慮していこう!
しっかりと覚えておくぞ!!
背中からの刺鍼でも胸膜に届くと思うからそういう場所による安全な深さの研究も必要そうだなぁ。
筆者の総括
鍼治療による気胸の事故は依然と多いのですが、学校ではあまり習う事はありませんでした。
当ブログを読んだ方はしっかりと習いましたか?
患者さんの身を守る為にも、施術者である自分の事を守る為にも必ず頭に入れておきたい結果ではないでしょうか?
私もこの論文も読みましたし、鍼灸の安全対策ガイドラインもありますのでお目通しいただけると臨床でも役に立つと思います。
【鍼灸 安全対策ガイドライン】
今回の論文を読んで私も改めて刺鍼深度は最新の注意を払っています。
特に背部痛の患者さんの治療時には気をつけています。ついつい深い部分まで攻めてしっかりと症状を緩和させてあげたくなるのが施術家としての性かと思います。
しかしそういう時こそ「悪化させない」事にこだわる事も施術家としての性として優先するように私は心がけています。
今回の気胸に関しても注意ですが切鍼も気をつける必要があります。
基本ですが鍼柄まで鍼を入れない事や、深く刺入した状態で強度の強い運動鍼などは行わない事。
当たり前の安全管理を当たり前にできる事も国家資格を持った者として施術を提供できる事も一つの価値だと私は信じています。
今回の論文
論文名
Change of Safe Needling Depth at Acupoint GB21 according to Posture and Breathing
著者
Jae-Hyuk Yang, Bo-Yeon Baik, Jeong-Cheol Shin, Jae-Hong Kim, Byung-Kwan Seo, Sang-Kwan Moon, Seong-Uk Park, Woo-Sang Jung, Jung-Mi Park, Chang-Nam Ko, Ki-Ho Cho
掲載誌
Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine (eCAM)
掲載年
2018年
免責事項
本記事は最新の研究論文(医学的文献)に基づいた情報提供を目的としており、特定の治療法や効果を保証するものではありません。特定の症状の診断や治療については、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。

