鍼灸関連

肩関節周囲炎(癒着性関節包炎/凍結肩)の臨床において、病期に応じた治療方針

medebilabo00

ルー博士!
前に拘縮肩に対しての温熱療法の事や温熱+鍼が凍結肩に対してどのように相乗効果があるかを教えてもらったじゃない?
でも肩関節周囲炎って炎症期、拘縮期、寛解期とフェーズが分かれてるでしょ?
基本だとは思うけど今一度ちゃんと分類してどういったことを気を付けて治療するのか学びたいんだよね!!

以前の記事
【凍結肩・拘縮肩】なぜラジオ波で凍結肩の痛みが減り肩が動くようになるのか?
【凍結肩・拘縮肩】なぜラジオ波で凍結肩の痛みが減り肩が動くようになるのか?
ルー博士
ルー博士

基本を学び直すのはいい事だね!
確かに肩関節周囲炎を見て「あれ?これは炎症期?拘縮期?」って判断に迷う事ってあるよね。
肩関節周囲炎の臨床においての米国理学療法士協会・JOSPTの臨床実践ガイドラインがあるよ!
これを一緒に読み深めてみよう。

肩関節周囲炎(癒着性関節包炎/凍結肩)の臨床において、病期に応じた治療方針
米国理学療法士協会・JOSPTの臨床実践ガイドライン

研究の背景・目的

背景

凍結肩は自然経過で「炎症期・拘縮期・解氷期」を辿るとされてきましたが、期間だけで区切ると個体差が非常に大きく、「強い痛みがある時期に無理なストレッチを行って悪化させる」といった治療過誤が臨床で頻発していました。

目的

そこで米国理学療法士協会(APTA)整形外科部門は、膨大な文献レビューに基づき

・痛みの強さ

・夜間痛の有無

・可動域制限と痛みの出現タイミング

上記から「組織の過敏さ(易刺激性)」を分類し、各病期に最も推奨される介入法を体系化したガイドラインを策定しました。

ルー博士
ルー博士

ケンちゃんと同じ悩みで治療のフェーズを間違えて悪化させてしまう実例が多かったからガイドラインを作ったんだね!

病期分類の指標(組織易刺激性の3段階)

高易刺激性(High Irritability ≒ 炎症期 / Freezing)

痛みの強さ

VAS:7〜10 / 10(強い自覚痛)

・安静時痛や夜間痛が強い。

・可動域の最終域に達する「かなり手前」で激痛が生じる(Pain before resistance)。

障害度

高度(服の着脱、洗髪、結帯動作などが激痛で著しく困難)

自動可動域と他動可動域の比較

他動可動域 > 自動可動域
(痛みによる筋スパズムや防御収縮のため、自力では痛くて動かせない)

抵抗と痛みの関係

痛みが先(Pain before resistance)
関節包や靭帯の緊張(物理的抵抗)に達する手前の可動域で、鋭い激痛が生じて停止する

〜【Pain before resistance】の臨床的意味〜

理学検査で肩関節を外転・外旋させていく際、関節包が伸張される限界(骨性のエンドフィールや関節包の突っ張り)に達するよりかなり手前の角度で患者が痛がり、筋スパズムによって運動がブロックされる状態です。
この現象が起きている場合は、関節包の物理的短縮ではなく「滑膜の活動性炎症」が主態です。この時期に可動域制限を解消しようとストレッチや強刺激の刺鍼を加えると、滑膜炎を悪化させ、かえって拘縮期を重篤化させます。

中等度易刺激性(Moderate Irritability ≒ 拘縮期 / Frozen)

痛みの強さ

4〜6 / 10(中等度の痛み)

・安静時痛は軽減するが、動作時痛やエンドレンジでの痛みが続く

・抵抗感(硬さ)を感じると同時に痛みが出現する(Pain at end range)。

夜間痛
断続的・軽度(一定肢位をとれば落ち着く、動作時に主)

障害度

中等度(日常生活動作はある程度こなせるが、制限や軽い痛みを伴う)

自動可動域と他動可動域の比較

他動可動域 ≒ 自動可動域
(自力でも他動でも動かせる範囲がほぼ同じで、一定の角度でロックされる)

「他動可動域 ≒ 自動可動域」への変化

患者が「痛いけれど、他人が動かしても自分が動かしても止まる角度が同じ」になってきた段階が、炎症主体の高易刺激性から、線維化・拘縮主体の中等度〜低易刺激性へ移行したサインとなります。
この段階から初めて、関節包のモビライゼーションや持続伸張手技が適応となります。

抵抗と痛みの関係

痛みが同時(Pain at resistance)
組織の突っ張り・抵抗感を感じ始めたポイントとほぼ同時に痛みが生じる

低易刺激性(Low Irritability ≒ 寛解期・解氷期 / Thawing)

痛みの強さ

1〜3 / 10(軽度の痛み・違和感)

・安静時痛・夜間痛は消失。日常生活動作での支障は減少。
・関節の最終可動域(エンドフィール)まで動かして初めて突っ張り感や軽度の痛みが出る(Overpressure into resistance)。

障害度

軽度
(日常生活はほぼ自立。高い所へ手を伸ばすなど限界動作時のみ制限)

自動可動域と他動可動域の比較

他動可動域 ≒ 自動可動域
(可動域制限自体は残るが、抵抗感があるのみで疼痛による抑制がない)

抵抗と痛みの関係

抵抗が先(Pain after resistance)
関節の最終域(硬いエンドフィール)まで動かし、さらに圧迫を加えて初めて軽度の痛み・伸張感が出る

こうやって文字に起こししてみるとなんとなくでわかっていた治療のフェーズをしっかり分けて考える事ができるね!!

時期別治療プロトコル(推奨内容)

高易刺激性期(炎症期)

基本方針

炎症と痛みの沈静化、過度な刺激の回避。

介入

痛みを誘発しない

・極めて短時間の低強度モビライゼーション(グレードI〜IIの関節離開・滑走)

・自動介助運動(痛みゼロの可動域内)

・患者教育(痛みを誘発する肢位の回避)。

禁忌

強引な他動ストレッチやエンドレンジへの追い込み(滑膜炎を再燃させるため強く非推奨)。

ルー博士
ルー博士

炎症期はとにかく痛みが強いので可能な範囲での消炎、疼痛抑制と患者さんへの自宅での過ごし方指導が大切だね!

中等度易刺激性期(拘縮期)

基本方針

関節包・周囲軟部組織の伸張性改善への移行。

介入

組織の抵抗感に合わせた中等度のモビライゼーション(グレードIII程度)、短時間の静的ストレッチ、肩甲胸郭関節や胸椎のアライメント改善・モビライゼーション。

低易刺激性期(寛解期)

基本方針

残存する関節包拘縮の完全解除と運動機能の再獲得。

介入

・高強度のエンドレンジ・モビライゼーション

・長時間の持続的ストレッチ

・漸進的な筋力強化訓練(回旋腱板・肩甲骨周囲筋)および運動連鎖の統合。

まとめ

臨床への教訓

「発症から◯ヶ月」という時間の経過だけで炎症期・拘縮期を判断するのではなく、「痛みが組織抵抗より先に出るか、同時か、後か」という痛みの出現タイミング(Tissue Irritability)で病期を評価することが、施術選択の精度を上げます。

炎症期に無理に可動域を広げようとすると線維化を促進させて凍結期間を長引かせるため、高易刺激性期(急性期)は「鎮痛と安静指導」、低易刺激性期に入ってから「積極的な拘縮解除手技・運動療法」へと切り替える段階的なプロトコルが最も予後を良好にします。

実際に目の当たりにする患者さんの肩関節周囲炎でも「今日はすごく痛い」「今日はいくらか楽」と症状が高易刺激性期なのか中易刺激性期なのか微妙な事が多々あるよ。
拘縮期を長引かせない為にも高易刺激性期にしっかりと消炎・疼痛抑制を焦らずにやらなきゃいけないね!

筆者の総括

私が働いている自院でも肩関節周囲炎の患者さんは多くいらっしゃいます。
今でも「え?これ炎症期?拘縮期?」と判断に迷う事は未だにあります。
インピンジメント症候群と思って初回時に評価したら、次回来た時には炎症が始まり拘縮が出始めていたり。
拘縮期と判断して評価したら炎症期に戻ったり。
拘縮期と思っても炎症が再燃しないように細心の注意を払う事が重要です。
〜炎症期〜
・エンドフィール前に痛がってないか?
・牽引時痛がないか?
・安静時痛はあるか?
・強い夜間痛を訴えていないか?
〜拘縮期〜
・関節可動域はアクティブ=パッシブか?
・エンドフィールはあるのか?
・夜間痛の有無
・安静時痛の有無
上記のような事を私は肩関節周囲炎の時期の判断として実際にみています。

消炎鎮痛を目的とした施術をするのか、拘縮の緩和を目的とした治療をするのか。
時期によって提供する施術の内容は異なると思います。

今回の論文

論文名
Shoulder Pain and Mobility Deficits: Adhesive Capsulitis – Clinical Practice Guidelines Linked to the International Classification of Functioning, Disability, and Health From the Orthopaedic Section of the American Physical Therapy Association
↑↑クリックで原文が読めます。

著者
Martin J. Kelley, Philip W. McClure, Brian G. Leggin

掲載誌
Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy (JOSPT)

掲載年
2013年(※追補・改訂を含む標準ガイドライン)

免責事項

本記事は最新の研究論文(医学的文献)に基づいた情報提供を目的としており、特定の治療法や効果を保証するものではありません。特定の症状の診断や治療については、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。

ABOUT ME
Wataru
Wataru
鍼灸師 / 柔道整復師
柔道整復師14年目 / 鍼灸師8年目 / 医学的根拠を基に安全な鍼灸施術や外傷施術を提供するべく日々奮闘中。色々な医学論文を読んでしっかりと勉強していきたい / 趣味:サッカー、DIY
記事URLをコピーしました